圧入Q&A

第5回 圧入Q&A 解答

第5回 圧入Q&A(入門編) / 土木学会誌 2011年1月号掲載

Q.
建設工事は周辺の環境や施工条件によって施工方法が選定されます。近年は周辺環境への影響を出来るだけ小さくすることが求められます。圧入工法は環境に優しい工法として広く知られていますが、環境への影響が少ない工法として採用された工事は次のうちのどれでしょうか?

イ.鉄道高架化、複線化工事
ハ.道路改良工事
ホ.耐震補強工事

ロ.河川改修工事
ニ.海岸浸食対策工事



A. イ、ロ、ハ、ニ、ホ(全て)

複雑化する社会構造、高度化する社会基盤、拡大・高速化する交通網、老朽化する構造物、機能再生や災害対策を希求する地域社会など、建設工事を取り巻く環境は難易度を増しています。圧入工法では、原理的な優位性に加え、工事目的や現場条件にあわせて最適化されたシステム機器を用いることで、困難な施工条件下でも周辺環境への影響を最小限に抑えた施工を行うことが出来ます。

【鉄道高架化、複線化工事】 【河川改修工事】 【道路改良工事】
【海岸浸食対策工事】 【耐震補強工事】




【鉄道高架化、複線化工事】

カナダ、トロント市における鉄道の立体交差化工事での施工例です。鉄道の平面交差による交通渋滞を解消するために軌道の一部を地下し立体交差を図る工事で、土留壁として強度の高い鋼管矢板連続壁が採用されました。運行中の軌道に加え、周辺には老朽化した工場があり、安全性や環境上の配慮が不可欠ななか、振動や騒音を抑え硬質地盤にも対応できる、硬質地盤クリア工法が採用さました。





【河川改修工事】

神奈川県引地川の総合治水対策特定河川事業での施工例です。河床掘削のための護岸根継工として鋼矢板を圧入施工しています。完成杭の天端を作業軌道として、杭の搬送・吊り込み・圧入の全工程を完了する圧入施工システム機器により、仮設桟橋や盛土などの付帯工事が不要で、河積を阻害させず、護岸脇の住宅に影響を与えない圧入工法が採用されました。





【道路改良工事】

北海道知床国立公園近くでの道路改良工事での施工例です。工事地区は天然記念物であるオジロワシをはじめエゾシカなどの野生生物が多く生息する区域で、世界自然遺産にも指定されています。自然環境の保全が最重要課題である同地区において、圧入工法により、鳥獣保護に対する規制を遵守しながら施工が行われました。





【海岸浸食対策工事】

アメリカ、フロリダ州パームビーチにおける海岸護岸の構築工事での施工例です。海岸線に隣接する住宅を波の侵食から保護する為に鋼矢板護岸が構築されました。住宅に近接する施工環境に加え、ウミガメの産卵地であることも考慮され、静寂性に優れる圧入工法が採用されました。圧入機の作動油やグリースには、生態系に優しい生分解性油脂(自然界のバクテリアによって分解される油脂)が使用されています。





【耐震補強工事】

東京都墨田川での橋脚耐震補強工事の施工例です。既設橋脚の周囲に鋼管矢板を井筒状に打設し、両者を一体化させることで補強を実施しています。近隣には病院や学校施設が多く存在し、振動や騒音による影響をあたえず、橋梁の交通機能に支障をきたさない圧入工法が採用されました。空頭制限が厳しい橋梁下において、機械寸法を圧縮した専用の圧入施工システム機器を用い上空障害を克服しています。